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閉鎖された日記サイト
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Where are you at?

どこにいるの?とナンシーから携帯メールが入る。

home

家にいると返事をして、送信ボタンを押す。

3秒経たないうちに、携帯電話がブルブルとバイブレートする。

発信者は、ナンシーだ。

Can we talk?

話せる?と、一人称の私でもなく、二人称のあなたでもなく、三人称の私達が話すwe を使った。会話が一人では成り立たない。

Go ahead

どうぞ、と、ゴーサインを出す。

OK, so…. うん、分かった…

と言った後、少し感覚を開けて、ナンシーは言う。

あのね、私、日記を書いていたのよ。ウェブに。

Yeah, I know、知っているよと伝えると、

No, No, No, No, No, それじゃないの。

私がカリフォルニアに引っ越す前に書いていた日記があるの。今書いているのは、カリフォルニアに引っ越してきてからだから、その前の、そうね、2002年から2004年かしら。

OK? オッケーの語尾を上げて、で?と相槌を打つ。

その二年間の日記がね、ないの。It's gone!

ないって?

質問をしながら、私はウェブニュースを読んでいた。

過去に書いた事だし、今は他でブログを書いているから、そのままにしていたのよ。でも、今日そろそろ、ひとつにまとめようかと思って、クリックしたらね...

ないの。It's gone.

え?どうして?

I don't know. 分からないわ。閉鎖されたって書いてあるの。

で?

データはないんだって.....どこにも.....。

しばらく、まくし立てていたナンシーが静かになった。

Ummm…

何を言おうか考えてながら、えっとぉ...と言おうと思った瞬間ナンシーがまた話し出す。

誰もがバックアップデータを取りなさいって言っているのを知ってるわ。バックアップデータを取らないで、コンピューターが壊れて修復可能になったら、何も出来ない事も知ってるわ。もう、私の日記のデータはないの。どうしようもないの。だから、お願い。何か私を慰めて、安心させる事を言ってちょうだい。そうすれば、先に進めるから。

と、良いながらナンシーは空笑いをした。

分かるわ。それって私の携帯に入っていたデータが突然消えてなくなったのと同じだから良く分かるわ。と、言い、

あなたに属していた物が、あなたの意思以外の力で剥奪されたって事よね?

と言いながら、英語の言い方は時にしてパワフルだと感じた。

でもね、全ては私がいけないの。日記サイトを放置していたのは私だし、バックアップを取っていなかったのも私だし。

ナンシーは諦めながら言い、こう続けた。

なんかね、私の日記がなくなるだけなら別に良いのよ。例えば、私が高校生だった時に感じた事なんかを書いた日記が出てきたら、私は読まないで捨てるかもしれないわ。でも閉鎖されたサイトに書かれた日記は、その時の子供達の毎日の様子が書かれていたの。だから彼らの人生まで持って行かれちゃった気がして吐きそうよ。胃が締め付けられているみたいに。

それはヒドイお仕置だわね。と笑って答えると、ナンシーは電話の向こうでも笑っていた。

分かっていると思うけれど、過去があって、今があるわけだから、あなたのその日記に書かれた記載事項が消えてしまっても、それがなかったという事にはならないわよ。それに過去のあなたが、今のあなたになっている訳だし。

と言うと、

そうね。その通りね。

そう言うとナンシーはまた続けた。

私は自分で書いた古い日記のサイトをね、ずっと放置していたの。ゼンゼン読み返しもしなかったのよ。存在していると安心して、そのままにしていたの。そのままにして、その存在すら忘れていたの。でもなくなると、その存在していない事実が私を苦しめるの。変でしょ。身勝手だって分かってるわ。時々ウェブで何かを検索すると、誰かの物すごく古いサイトにたどり着く事があったりするじゃない?それと一緒で、自分の日記もずっとウェブの網に引っかかりながら行き続けると思ったのよ。

あのさ、とナンシーが自分に言い聞かせながら言ったに違いない台詞を聞いた後、私はナンシーに聞いてみた。

それ、どこのサイトかしら?アドレスを教えて?と聞いた。

え?だって、無理よ。それはあなたが話さない国の言葉で書かれているから。

とナンシーは、引っ込み思案になりながら言う。

それにね、私みたいな人は他にもたくさんいると思うし、ウェブの会社は何万人といる管理力のない会員に愛の手なんて差し伸べないわよ。ウェブの世界なんてそんなものよ。

と、ナンシーは閉鎖したサイトを支持するみたいな事を言った。

私はね、NOと言う言葉をそのまま取らないの。NOと言われたら自分がどれだけ欲しいか証明するため、いろいろと手を尽くすわ。とナンシーに伝える。まず、メールを書いたら?と言うと、

どこに問い合わせをしましょうとか、そんな記載は一切ないの。とナンシーは言う。

それにね、読むわよ、とナンシーはパソコンの画面を見ながら記載事項を読み上げた。

日記帳のデータを他サービスにデータ移管することはできませんので、ご注意ください。必要な日記帳のデータにつきましては、ユーザ様のパソコン等に保存していただきますようお願いいたします。

って書かれているんだもの。もうないの。It's gone.

ナンシーは諦めた様子だった。

以前誰からか聞いた話をナンシーにしてみる。

私の知り合いから聞いた話だけどね、ある日、誰かが子供のお迎えに行っている間にね、泥棒に入られたらしいの。30分も経っていなかったらしいわ。家に帰って来たらね、息子のディズニーコレクションのDVDだとか、宝石類とか、短い時間にそんなに取れるのかって思うくらい大切なものを殆ど取られちゃったんだって。

それもかわいそうな話ね、と、ナンシーは言い、そして続けた。

今だって世界のどこかで犯罪は起きているし、ハリケーンで家が全壊してしまった人だって、たくさんいるわ。でもね、これは、本当にバカみたいな話なんだけど、私のせいなのよ。私がバックアップを取らなかった事が悪いのよ。だから高いレッスン料だと思って、今のブログのデータはすべてバックアップを取るわ。

と言い、ナンシーは本当に大きい声を出して笑った。

ナンシーは、突然何者かに胃を掴まれて、痛くて、動けなくなって、顔面蒼白になって、泣きそうになっているに違いない。弱くなった彼女に言ってみた。

私はね、物に左右されないの。物は物。世の中にはね、物よりも大切なものがあるのよ。物とあなたの大切な人とどちらかを選べって言われたらどうする?答えは分かっているはずだわ。人間ってさ、生まれてくる時は何も持たないで来るじゃない?死ぬ時も何も持たないで旅立つのよ。だから物はあってもないの。

そう言うと、電話の向こうでナンシーはいささか安心したみたいだった。

そして、ナンシーは

バックアップを取っていても、それが読み込まれない時だってあるから、バックアップのバックアップを取っている人だっているけれど、どの範囲まで取らなきゃいけないかなんて、本当に分からないのよ。完璧なまで事を行っても、天災、Act of Godが起きて、全てがダメになる事だってあるしね。本当に神様しか分からない事だってあるだろうし。神様だって分からないかもしれないし。

と、悟ったように言い、続けて

だから、本当は何かが起こってから後悔するんじゃなくて、その時を生きる事に視点を変えたほうが良いわよね。過去は引き出されて存在する訳だからね。引き出さないと、その存在すら忘れて放置しちゃう訳だし。あ、でもそうすると削除されちゃうかもしれないわね。困ったわ。

とナンシーは笑う余裕さえ見せた。

ありがとう。私はきっと自分の不注意でしてしまった失態に後悔して、これから何度か夜中の2時に悪夢と共に起きるかもしれないけれど、大丈夫だって自分に言い聞かせて、前に進むわ。新しいバックアップデータを一緒に。

と、しがらみの糸を自ら断ち切って、さっぱりして、また大きく笑い、

Thank you! あなたが私の人生にいてくれて良かったわ!本当にありがとう、と言った。

私も、私もよ!と同じ事を二度続けて言って電話を切った。

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ここに書かれたナンシーに起きた記載事項は、不本意にも私に起きた事です。ナンシーをコニーに置き換え、そしてコニーをナンシーに置き換えて、もう一度読んでみてください。
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by ConnieWest | 2009-08-31 02:28 | Life in California
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